※この話は実話を基にしたリアルな物語ですが、実在する団体や個人名を伏せるために、至る所に仮名を使っています。
危うい結婚 その②
少年A「結婚しちゃば良いんじゃねえの俺ら。」
少年Aの彼女「いや意味わかんないんだけど(笑) クスリ喰ってる?(笑)」
少年A「いやよくよく考えたらさ、こんなラブホテルの部屋代払ってるくらいならさ、俺が家借りちゃえば良いんじゃないの? まあほら結婚前提にちゃんと付き合うって意味でもさ、家借りて住んじまおう。」
少年Aの彼女「…マジ。それってイケてる。ってかあんたかっこよ…。」
と言い目に涙を浮かべる少年Aの彼女。
少年A「ってゆうかなんで今まで思いつかなかったというか、なんでこんな事に気が付かなかったんだろ。ラブホテルに高い金払ってるよりよっぽど家借りちゃったほうが安いじゃねえかよ…(笑)」
それもそうである。だってラブホテルに1泊泊まるのに曜日にもよるが10,000円前後かかるのだから、30日間になるとそれなりにかかるのである。
このあたりがやはり足りない頭なのである…。普通の人間ならもっと早く気が付くはずなのだ…。
ただ少年Aの彼女らは当にブラックリストに載っているし、稼いだ金はほとんどその日のうちに使ってしまうため貯金もないため、彼女たち自身で家を借りるのはなかなか難易度が高かった事は確かである。
だからこそもっと早く少年Aが気が付いていればよかったのだが、この考えに至るまでに実に数ヵ月もの時間がラブホテルで消費されてしまっていた。
少年A「んでよ、結婚マジに考えるならもちろん今の仕事もやめてもらうから、おまえ普通の昼の仕事探せ。コンビニのバイトでもなんでも良いから、自分の小遣いくらいは稼いでついでに社会との繋がりもちょっとでも持っておけ。」
というわけでこの日から少年Aは暇を見つけては不動産屋に通い、住む家を探した。
今のようにスマートフォンやパソコンで簡単に家が検索できるような時代ではなかったため、街の不動産屋に足を運ばなければならなかった。その後は今と同じ流れであるが、とにかく家探しは時間がかかった。
色々と物件を見に行ったが、割と問題ありの2人が住む事を大家が知るとなかなか上手い事話が決まらず、部屋探しは難航した。
なんとか見つけた家は家賃6万円前後のボロアパートだった。
問題ありの人間でもOK。その代わり他の住人も曲者揃いでボロかった。
それでも2人にとっては最高の物件に思えた。
だってラブホテルでの先の見えないその日暮らしを抜け出せて、同時に帰る場所もできるのである。これを最高と言わずしてなんと言うのだ。
新居への引っ越しが決まると、ラブホテルのフロントのお姉さんも二人の門出を笑顔で祝福してくれた。
茶髪のフロント姉さん「二人とも良かったじゃん。もう戻ってきちゃいけないよここには。こんなとこね、人が長く暮らす場所じゃないよ。ここはエッチをするところだから(笑)」
少年A「押忍。残りの2人の事頼みます。」
茶髪のフロント姉さん「お姉ちゃんたち、最近ホスト連れ込んでどんちゃん騒ぎばっかりしてるけど、二人の引っ越しが決まって寂しいのかもね…。」
ともあれ少年Aとその彼女は、この底なし沼のようなラブホテルでの暮らしから抜け出した。
この底なし沼には人を殺すほどの殺傷能力はないが、一度落ちたら簡単には抜け出せずにもがき続ける事になる。
多くの人間は沼の中に胸まで浸かりながら、岸の上の人間たちを眺めながら老いていく。
そんな事はまるで気にせず、繫華街は無情に人を飲み込み続け、腹の中で生かさず殺さず飼い続けるのだ。
新しい家での暮らしは苦労の連続であったが、それでも2人の暮らしは穏やかで満たされたものだった。
仕事が終わり家に帰ると「おかえり」と待っている人がいる。なんと幸せで尊い事だろう。
少年Aの彼女はデリヘルをやめ、アパートの近くのコンビニエンスストアでアルバイトを始めていた。
少年Aも悪いことをやめ普通の仕事に就き、まっとうな人間になるために自分なりの努力をしていた。
まるでクジラの腹の中のゼペットじいさんのような暮らしだったラブホテルでの暮らしから考えれば、かなり良い方向へ向かって進んでいるように感じられた。
二人は結婚という大きな目標に向けて歩み始め、まるで禊を進めるかのようにこれまでの特殊な暮らしの清算を行っていた。
二人の暮らしは、順調に感じられた。
しかし今思い返してみれば、それは少年Aの勘違いだったのかもしれない。
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