第四話「始まりの一服(ファースト・ブリュー)」
──アキラは、茶碗を胸に抱きしめていた。
あの日の夕焼け、母の笑顔、地球の風景。
茶の記憶が、全身を満たしていく。
「地球が、俺を呼んだ……。」
立ち上がるアキラの前で、少女の姿をした“地球”が微笑む。
「アキラ。私たちは、もう一度、始められる。」
彼女の掌に、一枚の茶葉が乗っている。
「これは原初の葉(オリジン・リーフ)。
生命の情報、すべてを記憶する葉。」
アキラの瞳が見開かれる。
「これをどうする……?」
「君の手で、銀河に植えてほしい。
緑が戻る未来を。」
そのとき、通信が割り込む。
『──アキラ!ステーションから警告信号!連邦艦が来る!』
リィゼの声だ。
「時間がない。」
少女はそっとアキラに近づき、囁く。
「忘れないで。君の茶は、ただの癒しじゃない。
記憶をつなぐ“生命のネットワーク”なの。」
そして、少女の姿が淡く光り、消えていった。
──宇宙船《ツキヨミ》船内。
「アキラ、間に合ったか!」
リィゼが振り返る。
そのAIの瞳に、かすかな揺らぎが見えた。
「……リィゼ、お前は俺の母の記憶を宿しているんだろう?」
AIは少し黙ったあと、口を開く。
「正確には、地球が最後に放った意識データの欠片。
私は、その断片を基に構築された。」
「だから、俺を導いてくれたのか。」
「アキラ、君は選ばれたのではない。
君自身が選んだんだ。」
アキラの手の中、原初の葉がわずかに発光する。
「行こう。」
船は宇宙に躍り出た。
背後では連邦艦の砲火が瞬き、破壊と混沌の波が迫る。
だが、アキラの胸の奥は、不思議な静けさに包まれていた。
「俺は、茶を淹れる。
星々に、生命の記憶を届けるために。」
リィゼの声が重なる。
「そして私は、その記憶を導く。」
二人の瞳に、宇宙の彼方が映る。
緑なき銀河に、最初の一滴を──。
【次回予告】
■連邦の思惑と、アキラを狙う新たな組織
■宇宙各地に広がる〈緑の反乱〉
■そして、リィゼの中に芽生える“感情”とは?
宇宙緑茶アーティスト【アキラ】
第五話「緑の反乱(リーフ・リベリオン)」へ──
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