著:フレキシブル浜島
●舞台設定
- 舞台は近未来、銀河間交流が当たり前になった世界。
- 宇宙各地の文化交流の中、「地球茶芸」は静かなブームを迎える。
- その中でもひときわ異彩を放つのが、若き茶師アーティスト、アキラ。
- アキラは地球茶だけでなく、他惑星産の水、気圧、重力、そして宇宙由来の花粉や鉱物を茶葉と融合させ、宇宙の人々を魅了する「超感覚茶」を創り出す。
- 彼の作った茶はただの飲み物ではない。飲むことで五感を越えた「記憶体験」を呼び起こすと言われる。
- 各惑星の支配者や密かに力を持つ者たちは、彼の茶を求め集うが……その茶には知られざる秘密があった。
●主人公アキラについて
- 年齢:20代半ば
- 性格:一見柔和だが、強い信念と好奇心を持つ。実は元・科学者で、失われた「地球の水の記憶」を探して茶芸師となった。
- 特徴:左耳に銀の茶さじ型ピアス。着物と宇宙服の融合したような衣装。重力に逆らう髪。
▶第1話 宇宙茶会、始まる
星々が瞬く漆黒の宇宙。そのただ中に、ひときわ異彩を放つステーションが浮かんでいる。
名は《アルタイル・オルビタ》。銀河連邦最高級の外交用ステーション。
その一室、ラグジュアリーな和風空間に改装されたホールに、招待客が集まっていた。
異星の外交官、人工知能体のエージェント、重力解放戦線のリーダー、そして、顔を隠した謎の一団。
「ふふ、地球茶芸なんて、ただのパフォーマンスだろう?」
笑い声が聞こえる。
そこへ静かに歩み入る一人の青年。
銀の茶さじ型ピアス、艶やかな黒髪が低重力に揺れる。
彼の名は── アキラ。
「皆さま、はじめまして。
宇宙茶芸師、アキラと申します。」
彼の声は澄んでいて、不思議なほど場を支配する。
手にした茶道具は、地球由来のものではなかった。
木星の衛星ガニメデ産の氷を削り、火星の紅塵を織り交ぜた陶器。
そして、謎めいた茶葉──それは、かつて地球が失ったとされる古代茶の復元種だった。
「本日は、皆さまの記憶に触れる茶をご用意しました。」
一同が息を呑む。
一服、二服。
次第に空間は変容し始める。
目の前の光景が歪み、客人たちの脳裏に、それぞれの“最も強く残る記憶”が呼び起こされていく。
ある者は、故郷の星の夕焼けを。
ある者は、失った恋人の笑顔を。
ある者は、かつて交わした血の誓いを。
そして彼らは気づく。
この茶は、ただの嗜好品ではない。
「心に触れる鍵」だと。
そのとき、ホールの壁が爆音とともに破られた。
黒装束の集団が乱入し、銃口を向ける。
「全員動くな! アキラ、緑茶の原種データを渡せ!」
アキラは、ゆっくりと立ち上がった。
「……お客様に、最後までおもてなしを。」
静かに、しかし確かに。
茶碗を一閃。微細な茶の霧が宙に舞う。
次の瞬間、侵入者たちの意識が一斉に沈み込む。
「ようこそ、記憶の宇宙(インナースペース)へ。」
アキラの瞳が、淡い緑光を帯びていた。
【次回予告】
宇宙茶を巡る争奪戦が、銀河を巻き込む──。
アキラが背負う「古代地球の秘密」とは?
そして、彼自身の失われた記憶とは……。
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