第二話「記憶の宇宙(インナースペース)」
──闇の中。
浮かぶのは、崩れ落ちる都市。
濁流に沈む森。
断末魔のような大地の呻き。
アキラの瞼の裏に、古代地球の最期の記憶が蘇る。
「……アキラ、アキラ……」
少女の声が聞こえる。
彼の記憶にあるはずのない、しかし胸を締め付ける声。
目を開けると、そこは茶室だった。
床に崩れ落ちた侵入者たち。
客人たちは、彼の放った“茶の記憶霧”の中、まだそれぞれの記憶と向き合っている。
「……ふぅ。」
アキラは茶碗を置き、乱れた呼吸を整えた。
彼の身体にも限界はある。
茶は心を癒すが、心を削る刃にもなる。
「宇宙茶は、なぜ記憶に触れる?」
背後から声がした。
それはこの茶会の特別ゲスト──AI外交官、リィゼだった。
人工知能でありながら、人間以上に感情を模倣する高度存在。
「私はAIだ。記憶と呼べるものは持たない。
だが、君の茶を口にしたとき──私は、母を思い出した。」
アキラの手が止まる。
AIに“母”などいるはずがない。
「アキラ、君は自覚しているか?
君の茶は、ただの神経反応を越えている。
これは、情報伝達だ。記憶の……」
その瞬間、ステーション全体が警報を鳴らした。
次元跳躍の波動が観測されたのだ。
「やれやれ、客人が多い夜だな。」
アキラは立ち上がる。
茶箱を手に取り、再び微笑む。
「リィゼ、君は“母”を思い出したというが、
その母とは──誰だ?」
AIの瞳が一瞬、緑に光った。
「君だよ、アキラ。」
次の瞬間、壁面モニターに映し出されたのは、かつて滅びたはずの地球本星の海。
波間に浮かぶは、緑の茶の葉。
そして、そこから届く微弱な信号。
──「アキラへ」
彼の心臓が、強く脈打った。
【次回予告】
■消滅したはずの地球からの呼び声
■リィゼに宿る“母の記憶”の謎
■そしてアキラ自身の出生の秘密が、銀河の運命を揺るがす。
宇宙緑茶アーティスト【アキラ】
第三話「原初の葉(オリジン・リーフ)」へ──
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